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鳥取地方裁判所 昭和52年(ワ)81号 判決 1979年9月17日

原告

山本義人

被告

辻哲治

ほか一名

主文

被告辻哲治は原告に対し金七七九万五九四七円および内金七〇九万五九四七円に対する昭和五二年六月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告辻哲治に対するその余の請求を棄却する。

原告と被告辻仙太郎との間において、被告辻哲治と被告辻仙太郎との間の別紙物件目録記載の各不動産についての昭和五一年九月四日付売買契約はこれを取り消す。

被告辻仙太郎は原告に対し別紙物件目録記載の不動産についての昭和五二年六月一一日鳥取地方法務局岩美出張所受付第八七七号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

訴訟費用は、原告に生じた費用を五分してその内の各二を被告らの負担とし、その余を各自の負担とする。

この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

(一)  被告辻哲治は原告に対し金九五九万六八三五円および内金八七九万六八三五円に対する昭和五二年六月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  主文第三および四項同旨。

(三)  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに(一)につき仮執行の宣言。

二  被告ら

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二原告の主張

一  請求の原因

1(一)  原告は、昭和五〇年一〇月一五日午後五時四五分ころ、鳥取県岩美郡岩美町大谷地内国道一七八号線路上で立つていたところ、被告辻哲治が飲酒のうえ兵庫県方面から鳥取市方面へ向け運転してきた軽四輪貨物自動車に衝突された。

(二)(1)  原告は、右事故により左下腿開放骨折兼挫滅創、外傷性関節炎、頭部左手挫創兼挫傷、外傷性シヨツク、右足部膝部挫傷の各傷害を受けた。

(2) 原告は、右傷害の治療のため星野医院に次のとおり入・通院した。

(イ) 第一回入院。昭和五〇年一〇月一五日から同五一年二月六日まで一一五日間。

そのうち付添看護を要した期間。昭和五〇年一〇月一五日から同年一二月一日まで四八日間。

(ロ) 第一回通院。昭和五一年二月七日から同年五月四日まで八七日間のうち実日数四七日。

(ハ) 再入院。同年一一月一〇日から同月二二日まで一三日間。

(ニ) 再通院。同年一一月二三日から同年一二月七日まで一一日間のうち実日数四日。

(3) 原告は、右傷害により次の後遺障害を負つた。

(イ) 左足関節拘縮。左大腿周三八センチメートル(右五四センチメートル)、左下腿周三二センチメートル(右三七・五センチメートル)。

(ロ) 前頭部に長さ四二ミリメートル、左下腿伸側に長さ一六〇ミリメートル、左下腿屈側に長さ一九〇ミリメートル、幅二〇ないし三〇ミリメートルの醜瘢痕。

(三)  被告哲治は、加害自動車の保有者で、自己のためにこれを運行の用に供していたものであるから、自賠法三条に基づき、右事故による原告の損害を賠償する義務がある。

(四)  原告は次の損害を被つた。

(1) 前記入・通院による損害 合計三一六万一〇四二円

(イ) 第一回入院治療費 八四万六七四〇円

(ロ) 第一回通院治療費 五万六四八〇円

(ハ) 再入・通院治療費 四万五一一六円

(ニ) 第一回入院付添費。一日二三〇〇円の割合による四八日分。 一一万〇四〇〇円

(ホ) 再入院付添費。右同割合による一三日分。 二万九九〇〇円

(ヘ) 第一回入院雑費。一日五〇〇円の割合による一一五日分。 五万七五〇〇円

(ト) 再入院雑費。右同割合による一三日分。六五〇〇円

(チ) 休業損害。昭和五〇年度賃金センサスによる三三歳男子労働者の平均月収一四万三八〇〇円に基づき、昭和五〇年一〇月一五日から同五一年一二月七日まで四一九日分。 二〇〇万八四〇六円

(2) 後遺障害による逸失利益 九三〇万九八九四円

原告は、事故当時三三歳の男子で、優秀な大型車両運転の技能を持ち大型貨物自動車の運転手をしていたが、本件事故による前記後遺障害は自賠法施行令二条別表障害等級九級に該当し、その労働能力喪失割合は一〇〇分の三五となるものである。しかし、原告には、幼時に罹患した小児麻痺の後遺障害があり、その労働に対する実際上の影響はほとんどなかつたものの、一応その障害等級を一二級、労働能力喪失率を一四パーセントとして、これと前記喪失率との差二一パーセントの労働能力を本件事故によつて喪失したものとみるべきである。そして、原告は、前記年齢の男子の平均年収二二六万七二〇〇円(賃金センサス昭和五〇年第一巻第一表産業計全労働者三〇ないし四〇歳の決つて支給する現金支給額と年間賞与その他特別給付額との合計)を下らない収入を六七歳まで得られたはずであるから、その間の右収入額に前記割合を乗じた金額の現価(ホフマン係数一九・五五四)が本件事故による逸失利益となる。

(3) 慰藉料 三八〇万円

(イ) 第一回入・通院に対し 一一〇万円

(ロ) 再入・通院に対し 一〇万円

(ハ) 後遺障害に対し 二六〇万円

(4) 弁護士費用 八〇万円

(五)  右損害のうち次の金額が填補された。

(1) 被告哲治は、治療費全額(前記(四)(1)の(イ)ないし(ハ))と原告の入・通院中の休業補償((四)(1)(チ))のうち八四万円を支払つた。

(2) 被告哲治は、岩美簡易裁判所の調停に従い、七〇万円を支払つた。

(3) 原告は後遺障害について自賠責保険給付二三五万円の支払を受けた。

2  よつて、被告哲治に対し右(四)の損害額から(五)の填補額を差し引いた損害賠償請求権残額一二二三万二六〇〇円の内金九五九万六八三五円およびその内弁護士費用八〇万円を除く金員に対する本件訴状送達の日の翌日の昭和五二年六月三日以降民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

3(一)  別紙物件目録記載の各土地(以下、本件土地という)は被告哲治の所有であつたところ、これにつき、被告仙太郎へ、昭和五一年九月四日付売買を原因として同五二年六月一一日鳥取地方法務局受付第八七七号をもつて所有権移転登記がなされている。

(二)  しかし、右売買は、原告に対して前記損害賠償債務を負担する被告哲治が、原告の追求を免れるため、兄の被告仙太郎と通謀してした虚偽の意思表示である。

すなわち、本件土地とその地上の家屋(未登記)とは、被告哲治が家族とともに現に居住するところで、同被告の唯一のみるべき資産である。そして、本件土地(合計三七九・二二平方メートル)の固定資産評価額は二〇六万円余であるから、その時価は四〇〇万円を下らないが、被告仙太郎はこれを代金一五〇万円で買い受けたというのである。また、地上の家屋は売買の目的物に加えず、しかも被告哲治は、引き続き右家屋に居住していながら、家賃も敷地の地代も支払つていない。さらに、本件土地につき前記所有権移転登記を経由したのは本訴提起の後である。このような事実からして、右売買が仮装のものであることは明らかである。

(三)  本件土地につき被告らの間に真に売買がなされたとしても、被告哲治のほとんど唯一の資産である本件土地を前記のような低額で処分することは、原告を含む一般債権者を害することが明らかであり、同被告は、この事情を知りながら被告仙太郎に本件土地を譲渡したものである。

(四)  よつて、原告は、被告仙太郎に対し、

(1) 被告哲治に対する本件損害賠償債権を保全するため、同被告に代位して、実体上無効な原因に基づく前記所有権移転登記の抹消登記手続を求め、

または(選択的に)

(2) 右売買契約を取り消し、右登記の抹消登記手続を求める。

二  抗弁に対する答弁

1  抗弁1のうち、本件事故現場の国道の車道部分および路側帯の幅員が被告ら主張のとおりであり、右現場が駐車禁止となつていたこと、本件事故当時原告の妹鈴木稔運転の自動車が停車し、原告が車道上に立つて鈴木と立話しをしていたことは認め、その余は争う。

現場の見通しは良く、当時まだ明るく、交通量も少なかつた。鈴木は、幅約一メートルの草地の路肩に跨つて車を停め、原告と二言、三言話しをしたが、その間の停車時間は数十秒にすぎなかつた。原告は、話し終わつて道路を横断すべく鈴木車に背を向けた際、加害車が接近して来るのを認め、鈴木車にぴつたりと背をつけて待避の姿勢をとつたが、直進して来た加害車を避け切れずはねとばされたのである。被告哲治は、直前に日本酒を四ないし五合飲み、泥酔状態で加害車を運転し、鈴木車および原告を避けようともせず、ブレーキもかけないで漫然直進して、原告をはねたのであつて、本件事故はもつぱら同被告の飲酒運転、前方不注視の過失に起因するものというべきである。また、被告哲治が事故を避けるための努力を何らとつていない本件においては、原告の過失が被告ら主張のように重いものでないことは明らかである。

2  抗弁2のうち調停成立の事実は認めるが、その内容、とくにこれによつて本件損害賠償が解決ずみであるとの事実は争う。

3  抗弁3は認める。

第三被告らの主張

一  答弁

1(一)  請求原因1(一)は認める。

(二)  同1(二)の傷害・後遺障害の内容・程度、入・通院の詳細は知らない。

(三)  同1(三)は認める。

(四)  同1(四)はすべて争う。

とくに逸失利益については、実額によつて計算すべく、安易に賃金センサスの平均値によるべきではない(ことに、鳥取県における平均賃金は全国平均を大きく下廻ることに留意すべきである)。原告が昭和五〇年一月二五日から同年九月二九日まで福部運送に勤務して得ていた給与は合計一〇五万四八四九円であるから、これを一年分に換算した一五七万一五〇九円が本件事故前の年間所得金額というべく、他方、原告が事故後の昭和五二年八月から同五三年一月までにあさひタクシーから受領した給与は合計七七万九二〇三円で、これを一年分に換算した一五四万五七〇一円が事故後の原告の年間所得金額である。このような事故の前後における収入を比較すると、事故後の収入滅は二万五八〇八円(減少率一・六四パーセント)にすぎず、したがつて、後遺障害による労働能力の喪失による逸失利益はほとんどなく、損害は現実に発生していないとみるべきである。なお、原告の従前の小児麻痺による下肢機能障害は右の労働実績からみても事故後と大差ないほど大きかつたとみるべきであり、他方本件事故による後遺障害のうち労働能力に影響のあるのは下肢の機能障害のみで、その障害等級は一〇級、労働能力喪失率は二七パーセントとみるべきである。

また、傷害による休業損害も、前記の事故前の収入実績によるべきである。

(五)  同1(五)の各支払の事実は認める。ただし、治療費等の支払額は後記抗弁3のとおりである。

2(一)  同3(一)は認める。

(二)  同3の(二)および(三)のうち被告仙太郎が同哲治の兄であることは認め、その余は争う。

被告仙太郎は、被告哲治が本件交通事故によつて負担する必要を生じた原告の入院費等の支払の資金として、昭和五〇年一〇月一七日、八〇万円を同被告に貸し渡したところ、さらに、昭和五一年八月三〇日岩美簡易裁判所において、同被告が原告に対し同年九月三〇日かぎり七〇万円を支払う旨の調停が成立したため、再度同被告から右金額の融通の申込を受けたが、兄弟の間で多額の貸借をすることは将来不和の因となると考え、宅地の売買なら応ずると答え、結局同年九月四日、同被告との間で本件土地につき代金一五〇万円で売買契約を締結し、先の貸金八〇万円を右代金の一部に充当するとともに、翌五日残代金七〇万円を支払つたものである(被告哲治は右七〇万円を同月二八日原告に支払つた)。

二  抗弁

1  原告は、国道の車道上に立つていて本件事故にあつたものである。国道一七八号線は交通量が多く、岩美町内全線にわたり鳥取県公安委員会告示による駐車禁止の交通規制が施されている。事故現場は道路幅員七・九メートルで、そのうち六・九メートルがアスフアルト舗装され、舗装部分の両側〇・三メートルを残した部分に路側線が引かれ、その間六・三メートルが車道となつていて、中央部に幅〇・一メートルの中央線があるので、左右両車線は三・一メートル幅である。しかるに、原告は、妹の鈴木稔が普通乗用車(車幅一・四メートル)を運転して事故現場に来たので、これを路側線に沿つて違法駐車させ、その結果駐車車両と中央線との間は一・六一メートルを残すのみとなつた。そして、原告は、右駐車車両と中央線との間に出て、右車両の運転席にいる鈴木稔と約二分間にわたつて立話しをしていたのであるが、その立つていた位置は路側線から一・九メートル、中央線から一・二メートルの車道の中央部で、丁度自動車の進行部分にあたることになる。このように交通ラツシユ時に車道中央で立話しをするということは自ら危険を招く行為にほかならず、本件事故発生については原告に重大な過失があるというべく、その過失割合は、被告哲治に飲酒、前方注視不十分の過失があることを考慮しても、原告七対被告哲治三とみるのが妥当であり、これによつて過失相殺されるべきである。

2  本件事故については、岩美簡易裁判所昭和五一年(交)第一号損害賠償調停事件において、同年八月三〇日原告と被告哲治との間に調停が成立した。その調停条項とその前提としての当事者間の和解契約の内容は、

(イ) 被告哲治は、同日までに支払ずみの金員のほか、七〇万円の支払義務を認める。

(ロ) 後遺症に対する請求は自賠責保険請求による。

(ハ) 同被告は、同日以後に行なわれる骨折補強材除去手術に要する治療費、休業補償、慰藉料、雑費につきなお賠償の責に任ずる。

(ニ) 右(イ)、(ロ)、(ハ)のほか原告は何ら請求しない。

というものであつた。したがつて、原告の本訴請求は、右調停和解により解決ずみのものを再度請求するもので、失当である。

3  被告哲治は、請求原因1(五)の各金員を含めて次の各金員合計四九二万二〇五五円を原告に支払つた。

(一) 第一回入・通院に対する治療費

(イ) 星野医院へ昭和五〇年一〇月二〇日から同五一年五月二七日までに支払。 三九万二六二〇円

(ロ) 岩美町国民健康保険へ支払。 五一万七八二五円

(二) 見舞金(慰藉料充当)。昭和五〇年一〇月支払。 三万円

(三) 休業補償(請求原因1(五)(1))。昭和五〇年一〇月から同五一年四月までに支払。 八四万円

(四) 調停に基づく金員(同1(五)(2))。昭和五一年九月三〇日支払。 七〇万円

(五) 再入・通院関係

(イ) 治療費。星野医院へ昭和五一年一一月二六日支払。 四万五一一六円

(ロ) 逸失利益、慰藉料、雑費充当金。同日支払。 四万六四九四円

(六) 自賠責保険給付(同1(五)(3)) 二三五万円

第四証拠関係〔略〕

理由

一1  請求原因1(一)のとおり本件交通事故が発生した事実、被告哲治が加害車を保有し、これを自己のため運行の用に供していた事実は、当事者間に争いがない。

2  成立に争いのない甲第三号証、証人星野信敏の証言から真正に成立したものと認められる甲第九号証、右証言、原告本人尋問の結果および弁論の全趣旨によれば、原告は、右事故により左下腿開放骨折兼挫滅創、頭部・左手挫創等の傷害を被り、請求原因1(二)(2)の期間入・通院し、同1(二)(3)の後遺障害を負つた事実が認められる。

二  よつて、原告の被つた損害の額について検討する。

1  治療関係費

(一)  第一回入院および通院の関係

(イ) 治療費

支払の事実について当事者間に争いのない抗弁3(一)の金額(ただし、そのうち(イ)の金額が三九万二六二〇円とあるのは、成立に争いのない乙第四ないし一六号証、第一七ないし一九号証の各一・二、第二〇号証に照らし、三九万三一二〇円の誤算と認める)合計九一万〇九四五円と認めるのが相当である。

(ロ) 入院付添費

原告の被つた傷害の部位、態様に照らし、原告主張のとおり四八日間の付添を必要としたものと推認しえないではなく、一日二〇〇〇円の割合により九万六〇〇〇円を付添費用の損害と認める。

(ハ) 入院雑費

一日五〇〇円の割合による一一五日分、五万七五〇〇円と認める。

(二)  再入院および通院の関係

(イ) 治療費

原告主張の四万五一一六円が、支払の事実について当事者間に争いのない抗弁3(五)(イ)の金額と一致するので、右金額を治療費実額と認めるべきである。

(ロ) 入院付添費

弁論の全趣旨に照らし、再入院は骨折補強材除去手術のためのものであつたと認められ、右目的に鑑み、再入院の一三日間付添を要したという原告主張事実は肯認しえないではなく、したがつて、一日二〇〇〇円の割合による二万六〇〇〇円を損害と認める。

(ハ) 入院雑費

一日五〇〇円の割合による一三日分、六五〇〇円と認める。

2  休業損害

(一)  成立に争いのない甲第一〇号証、三ツ輪貨物運送有限会社作成部分は原告本人尋問の結果から真正に成立したものと認められ、その余の部分の成立に争いのない甲第一一号証、証人平田利夫の証言から真正に成立したものと認められる乙第二六号証、証人沢田平一郎(一部)、同佐藤幸男および同平田利夫の各証言、原告本人尋問の結果(一部)、日本交通株式会社に対する調査嘱託の結果を総合すれば、原告は、本件事故当時三三歳で、大型第二種免許を有し、昭和四六年ころから三ツ輪貨物運送株式会社、港運輸有限会社等に大型トラツクの運転手として、また日本交通株式会社にバス運転手としてそれぞれ勤務した後、昭和五〇年一月下旬から同年九月末ころまで有限会社福部運送に雇傭されて、大型保冷車による鮮魚等の長距離運送の業務に従事し、右運送にあたつては、運転自体のほか、一個が約三〇キログラムに及ぶ荷物の積み降しにも携つていたが、右会社の倒産によつて退職し、本件事故の数日前から一時的に田中水産に勤務していたこと、右福部運送において原告が昭和五〇年三月二六日から同年九月二五日まで六か月間に得た給料(税込)は、八〇万四七八三円(一か月平均一三万四一三〇・五円)であり、そのほかに、運転時には、走行時間に応じて(二四時間につき四食分)一食につき約三〇〇円の割合の食費の支給を受けていたこと、以上の事実が認められる。右給与の額について、甲第二一号証には異なる記載があるが、この書面は、原告本人尋問の結果によれば、福部運送の代表者平田利夫の妻が本件事故後帳簿その他の資料に基づかないで作成したものであることが認められるので、右認定を左右するに足りないものというべきであり、また証人沢田および原告本人の各供述中右認定に反する部分は、前掲乙第二六号証および証人平田の証言に対比して信用することができない。

ところで、原告は賃金センサスによる三三歳男子労働者の平均月収(きまつて支給する現金給与額)一四万三八〇〇円をもつて休業損害算定の基礎として主張するところ、右認定の福部運送の給与額に食費を加算した収入額は右金額を下らなかつたものと推認しえないではなく、したがつて、右主張は、結局正当とみることができる。

(二)(1)  右金額に基づくと、(イ)本件事故の日の翌日の昭和五〇年一〇月一六日から後記認定の調停成立の日の同五一年八月三〇日まで三二〇日間の収入の額は一五三万三八六六円、(ロ)同月三一日から原告主張の再通院の終期の同年一二月七日まで九九日間のそれは四七万四五四〇円となることが、計数上明らかである。

(2)  他方、成立に争いのない乙第二七号証、証人平井寿美男および同波田野亜夫の各証言、原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和五一年五月ころからタナカ電機株式会社に勤め始め、同月および同年六月には月額六万円、同年七月から一〇月までは月額七万円の給与を得ていた事実が認められる。ただし、右乙号証中同年四月分の給与を記載している点は、前掲乙第一九号証の一・二によつて同月中の通院日数が一七日に及んでいるものと認められることに照らし、また、同年一一月からの給与額を月一一万円としている点は、同月中に前記一三日間の再入院があつた事実に照らし、いずれも採用しえず、右給与額は、四月分は零、一一月分は七万円の半額三万五〇〇〇円、一二月一日から七日までの分は右金額による日割計算で一万五八〇六円と認めるべきである。そうすると、原告が現実に取得した収入は、(イ)昭和五一年五月分から同年八月分までが二六万円、(ロ)同年九月から同年一二月七日までの分が一九万〇八〇六円となる。

(3)  したがつて、原告の休業損害の額は、

(イ) 昭和五一年八月三〇日までの分が、前記(1)(イ)の一五三万三八六六円から(2)(イ)の二六万円を差し引いた一二七万三八六六円

(ロ) 以後同年一二月七日までの分が、(1)(ロ)の四七万四五四〇円から(2)(ロ)の一九万〇八〇六円を差し引いた二八万三七三四円

合計一五五万七六〇〇円となる。

3  逸失利益

(一)  前掲甲第九号証および証人星野信敏の証言によれば、原告は、昭和五一年一二月七日、前記後遺障害を残して症状固定したものと診断されたこと、右後遺障害のうち、左足関節拘縮による機能障害は自賠法施行令二条別表障害等級一〇級一一号に、前頭部および左下腿の瘢痕は同一四級五号および一一号にそれぞれ該当し、両者を併合して同九級に該当することが認められる。なお、原告が幼時に罹患した小児麻痺の後遺障害を有していた事実はその自認するところであり、鳥取県東部福祉事務所長に対する調査嘱託の結果によれば、原告は右後遺障害としての左下肢弛緩性麻痺による障害等級四級の身体障害者として認定されていた事実が認められるが、前記2(一)の認定事実と同所掲記の各証人の証言、原告本人尋問の結果に照らし、右障害はさして顕著なものではなく、ほぼ通常人なみの労働を妨げない程度のものであつたと推認され、したがつて、その障害等級を一二級とする原告の主張は肯認しうるものというべきである。そうすると、原告の本件事故による労働能力喪失の割合は、一〇〇分の三五から一〇〇分の一四を差し引いた一〇〇分の二一と認めるのが相当である。

(二)  原告が右症状固定時の昭和五一年一二月の時点において得べかりし収入の額は、前記事故前の収入等の認定事実に照らし、当裁判所に顕著な昭和五一年賃金センサス中の都道府県別給与額における鳥取県の三四歳男子労働者の給与額の年額二一四万三七〇〇円(毎月きまつて支給する現金給与額一四万三五〇〇円の一二倍と年間賞与その他特別給与額四二万一七〇〇円との合計)を下らなかつたものと推認するのが相当である。なお、原告主張のように賃金センサスの全国平均収入によるのは少ずしも妥当とは認めがたく、また、甲第一一ないし一四号証に記載された給与の状況は右判断を左右するに足りないものというべきである。

そうすると、右年収額の二一パーセントに三四歳の者の就労可能年数三三年のホフマン係数一九・一八三四を乗じて得られる八六三万五九二五円が原告の逸失利益の前記症状固定時点における現価である。

(三)  被告らは、事故後における原告の実収入が事故前のそれと大差がないことを理由に逸失利益の損害の発生を争い、前掲乙第二七号証、成立に争いのない乙第二九号証、有限会社あさひタクシーに対する調査嘱託の結果等を援用するのであるが、逸失利益の損害の賠償は、現実の収入の差額の補填ではなく、所得を生み出すべき基礎となる労働能力の客観的な減少を評価し補填することをその本質とするものであつて、現実の収入額は右評価のための資料となるにすぎないものと解すべきであり、その見地からすれば、右各証拠に現われた収入額も、原告本人尋問の結果に照らし、労働能力の客観的な喪失割合を右のとおり認定することを妨げるほどのものではないということができる(ちなみに、右調査嘱託の結果から認められる原告の昭和五二年八月から同五三年一月まで六か月間の実収入の額は七七万九二〇三円で、一年分に換算して、前記得べかりし収入額の約二七・三パーセントを減じた額である)。

4  慰藉料

すでに認定した諸般の事実関係を総合して、慰藉料の額は次のとおりとするのが相当である。

(一)  第一回入・通院に対し 一一〇万円

(二)  再入・通院に対し 一〇万円

(三)  後遺障害に対し 一五〇万円

三  次に、被告らの抗弁について判断する。

1  過失相殺について

本件事故現場の国道一七八号線の車道幅員が六・三メートル、両側路側帯の幅員が各〇・三メートルで、右現場が駐車禁止となつていたこと、本件事故当時、原告の妹鈴木稔運転の自動車が停車し、原告が車道上に立つて鈴木と立話しをしていたことは、当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第四ないし八号証、原本の存在および成立に争いのない乙第一ないし三号証、証人鈴本稔の証言、原告本人尋問の結果、被告本人辻哲治の尋問の結果(一部)ならびに右争いのない事実を総合すると、事故現場は見通しの良いほぼ直線の道路で、当時少し薄暗くなつていたが、前照灯をつけるほどではなく、交通量は閑散であつたこと、鈴木は、岩美町浦富方面から鳥取市方面に向けて走行して来て、車体幅員約一・四九メートルの自動車の左端が道路左側路側線にかかる程度の位置に車を停めたこと、原告は、道路を右側から横断して来て、鈴木車の運転席右側の車外に立ち、運転席に座つたままの鈴木と二分足らず会話をした後、引き返そうとしてふり向いたとき、加害車が浦富方面から接近して来るのを認め、鈴木車に背をつけて避けようとしたが及ばず、加害車に衝突されたこと、被告哲治は、当日昼過ぎから四合以上の酒を飲み、相当に酪酊したうえ加害車を運転して時速約五〇キロメートルで浦富方面から鳥取市方面へ向け進行したが、鈴木車まで五、六メートルの地点に至つて初めてその存在を認め、しかもこれを対向車と錯覚しつつその右側至近距離の所を減速もしないで通過しようとし、原告が立つているのにはまつたく気がつかないで進行して、車体前部左側を原告に衝突させたものであることが認められる。被告本人哲治の尋問の結果中右認定に反する部分は、前掲甲第七および八号証、乙第一および二号証に対比して信用することができず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定によれば、被告哲治は、酒に酔つて著しく注意力を欠く状態で、前方注視を怠つて進行し、そのために本件事故を惹起したものであることが明らかであつて、重大な過失があつたものというべきである。他方、原告についても、一般に車道上で立話しをすることが危険であることはいうまでもなく、しかも右認定によれば、鈴木車と道路中央線との間に自動車が安全に通過するだけの余裕がなかつたものとみられるので、このような位置に立つていたことは不注意のそしりを免れない。しかし、このような原告の過失は、それ自体として必ずしも軽微とはいいがたいものではあるが、被告哲治の右のような重過失と比較するならば、これを重視するのは相当でない。したがつて、本件事故発生についての両者の過失割合は、原告が一、被告哲治が九と認めるのが相当である。

2  和解による解決の主張について

昭和五一年八月三〇日原告と被告哲治との間に調停が成立した事実は当事者間に争いがない。成立に争いのない甲第一号証(丙第三号証と同一)によれば、右調停における調停条項は「一、相手方は申立人に対し本件交通事故による損害金として本日までに(相手方が申立人に対し本日までに支払した損害金以外に)金七〇万円の支払義務があることを認め、これを昭和五一年九月末日限り鳥取信用金庫岩美支店の申立人の普通預金口座に振込んで支払う。二、右第一項の金七〇万円には本件交通事故により本日以後発生する損害金は含まないことを双方が確認した。三、本件調停手続費用は各自弁とする。」というものであつて、調停調書上その余の定めの記載はないことが認められる。被告らは、右調停により、原告は後遺障害につき自賠責保険金を請求するほかその余の請求をしない旨の合意が成立した旨主張し、証人辻光子および被告本人辻哲治の各供述にはこれに沿う部分があるが、右各供述部分は、右調停条項、証人博田義雄の証言、原告本人尋問の結果に対比して信用することができず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。むしろ、右調停条項を弁論の全趣旨に照らして解釈するならば、右調停によつて成立した合意は、右調停成立の日までに現実化し判明していた損害の賠償については、既払分を充当するほか七〇万円を支払うことによつて、完済されたものとし、原告はその余の請求をしないが、当時すでに予定されていた再手術による損害、後遺障害が残つたときの損害、その他調停成立後に現実化しあるいは明らかとなるべき損害については、賠償請求権を留保するという趣旨のものであつたと認めるのが相当である。

3  弁済について

(一)  抗弁3の各金員(ただし、(一)(イ)の金額は前記のとおり三九万三一二〇円の誤算)の支払の事実は当事者間に争いがない。

(二)  前記認定の損害のうち右調停成立までに現実化していた損害は、二1(一)の第一回入・通院関係の損害、二2の休業損害中(二)(3)(イ)の調停成立までの金額ならびに二4(一)の第一回入・通院に対する慰藉料の合計三四三万八三一一円から前記過失割合による過失相殺としてその一割を減じた三〇九万四四八〇円であり、これに対し右調停成立までに支払われた抗弁3の(一)ないし(三)の金員(誤算について前記と同じ。)と調停に基づいて支払われた(四)の七〇万円との合計二四八万〇九四五円が右損害に充当され、その余の請求権は調停によつて放棄されたこととなるものである。

(三)  他方、右調停成立後に現実化した損害は、二1(二)の再入・通院関係の損害、二2の休業損害中、(二)(3)(ロ)の調停成立後の金額、二3の逸失利益、二4の慰藉料のうち(二)再入・通院分および(三)後遺障害分の合計一〇五九万七二八五円から過失相殺により一割を減じた九五三万七五五七円であり、これに対し抗弁3の(五)の金員と(六)の自賠責保険金との合計二四四万一六一〇円が右損害に充当されたこととなり、したがつて、損害残額は七〇九万五九四七円となる。

四  弁護士費用の損害は七〇万円を相当と認める。

五  したがつて、被告哲治は原告に対し七七九万五九四七円およびそのうち弁護士費用を除く七〇九万五九四七円に対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五二年六月三日以降民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務を負うものである。

六1  本件土地が被告哲治の所有であつたところ、これにつき同仙太郎へ昭和五一年九月四日付売買を原因として同五二年六月一一日所有権移転登記がなされている事実は、当事者間に争いがない。

2  被告仙太郎が同哲治の兄であることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない丙第一号証、第六号証、被告本人哲治の尋問の結果から真正に成立したものと認められる丙第二号証、第四および五号証、証人辻光子の証言、被告本人哲治および同仙太郎の各尋問の結果によれば、被告哲治は、原告に対する本件損害賠償の一部の支払の資金として、昭和五〇年一一月二〇日被告仙太郎から八〇万円を借り受けたこと、しかるに、被告哲治は、前記調停によつて七〇万円を原告に支払うべきこととなつたため、再び右金額の融通を被告仙太郎に頼み、同被告もこれを承諾したが、その際本件土地につき売買の形式をとることとなり、昭和五一年九月四日両被告間で売買契約書を作成して、代金を一五〇万円と定め、内八〇万円は前記貸金を充当することとし、残余の七〇万円をその後間もなく授受して、原告への前記支払にこれをあてたことが認められる。しかし、右証言および尋問の結果によれば、本件土地は、五筆が一区画となつて、被告哲治が所有し居住している家屋の敷地であること、右家屋は売買の対象とせず、しかも右家屋の存続につき地代の取決めその他の敷地利用に関する約定はなされていないし、さりとて土地明渡の期限等も定められていないこと、売買代金の額は、土地の客観的価額によつて定めたのではなく、既存の貸金の額と新たに被告哲治が必要とした金額との合計額として定められたものであること(被告本人両名は坪当り一万三〇〇〇円として代金額を定めた旨供述するが、結果的に右単価となつたにすぎないものとみることが妥当である)、以上の事実が認められ、この事実によれば、被告らの間の取引の実質は、被告仙太郎が同哲治に一五〇万円を貸し渡し、その担保のため本件土地につき所有権移転の形式をとつたものと認めるのが相当である。右証言および各本人尋問の結果中以上の認定に反する部分は信用するに足りず、他にこれを覆えすべき証拠はない。

3  右事実によれば、被告らの間の売買形式の契約は譲渡担保の意思に基づくものであつて、仮装の意思表示ではないと認めるべく、したがつて、被告仙太郎への所有権移転登記は、登記原因において実体と異なるが、現在の所有権が担保目的によるにせよ同被告に帰属しているというかぎりにおいては、現在の実体上の権利関係に符合するものというべきである。そうすると、被告哲治が右登記を無効のものとしてその抹消を請求することは許されず、したがつて、原告が被告哲治に代位して抹消を求める余地もないものと解される。

4(一)  不動産の譲渡担保も、少なくとも、その価額が被担保債権額を著しく超える場合には、詐害行為となりうるものと解すべきである。

成立に争いのない甲第二〇号証によれば、本件土地五筆の昭和五三年度における固定資産評価額は合計二〇六万四七九二円(三・三平方メートル当り一万七九六八円)であることが認められ、また、成立に争いのない甲第二四および二五号証、証人山下重雄の証言から真正に成立したものと認められる甲第二三号証、右証言によれば、本件土地は岩美町役場、岩美簡易裁判所、国鉄岩美駅等に近い町並みの中にあり、昭和五四年に付近で売買された数例の宅地の取引価格は坪当り一二万円から約二〇万円までであり、そのほか、岩美駅のすぐ近くの農地も坪当り二万五〇〇〇円余で売買されていること、本件土地は右各取引事例の宅地に比較して、同等の地域にあるものといいうるが、ただ、幹線道路から幅員二メートル余の狭い道路を入つた裏側にある点でやや立地条件が劣ることが認められる。この事実によれば、本件土地の昭和五一年九月当時の時価は、前記同五三年度固定資産評価額の約二倍の四〇二万二〇三〇円(三・三平方メートル当り三万五〇〇〇円)を下らなかつたものと推認するのが相当である。被告本人両名の供述中この認定に反する部分は信用することができず、他にこれを左右するに足りる証拠はない。

(二)  被告本人哲治の尋問の結果によれば、本件土地上の住宅はかなり老朽化した建物で、価格は低廉なものであり、同被告には他に見るべき資産はなく、本件土地がほとんど唯一の資産であつたことが認められる。

そして、前記のとおり原告は被告哲治に対し調停成立後においてもなお七〇九万円余の損害賠償請求権を有し、調停成立直後の昭和五一年九月当時その金額はいまだ具体的には明らかになつていなかつたにせよ、客観的には債権は発生していたのであり、前記三2の認定事実によれば、被告哲治においても、その後に現実化すべき再手術および後遺障害等による損害の額が相当多額のものとなるであろうことは、当時予見していたものと推認される。

そうすると、同被告は、本件土地を処分することにより原告に対する債務の履行を担保すべき資産を失いこれを害するに至るべきことを知りながら、兄である被告仙太郎に優先弁済を得させるため売買名義の契約によつて本件土地を譲渡したものであると認められる(被告哲治に害意があつたことは本訴提起後に所有権移転登記を経由していることからも窺われる)。

(三)  そうすると、本件売買形式の契約は詐害行為にあたり、原告が被告仙太郎に対し右契約の取消と所有権移転登記の抹消登記手続を求める請求は理由がある。

七  以上の次第で、原告の被告哲治に対する請求は前記五項の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、原告の被告仙太郎に対する請求中、詐害行為取消およびこれに基づく抹消登記手続請求は理由があるからこれを認容し、民訴法八九条、九二条、九三条、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 野田宏)

物件目録

一 鳥取県岩見郡岩美町大字浦富字長桝七一一番二五

宅地 六六・一一平方メートル

二 同所七一一番七

宅地 二六・四四平方メートル

三 同所七一一番二六

宅地 六・六一平方メートル

四 同所七一一番三三

宅地 一〇九・〇九平方メートル

五 同所七一一番四〇

宅地 一七〇・九七平方メートル

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